ロンドン留学と就活と

大学3年生。高校の時1年間アメリカ留学しました。そして今回のロンドン留学について、就活、ファッションについて書きます。

人生のバイブル〜正直に生きる〜

私のバイブルはカミュの『異邦人』

 

異邦人 (新潮文庫)

異邦人 (新潮文庫)

 

自分にも正直で本音で生きていきたい。しかし、人間らしく本音で生きることは実は本当に難しく、非常識である。カミュの『異邦人』(新潮文庫、1954年)で主人公ムルソーの身に起こった出来事や行動を通じて、その事実を痛感した。本作品は二部構成から成り立っており、第一部ではムルソーの視点から日記のように記されている。

 

 ある日、ムルソーは母が亡くなったことを電報で受け取る。一切の悲しみの涙も見せずに通夜に立ち会う。そこで生前、宗教について考えていなかった母が宗教に即して埋葬してほしいと言っていたことを知る。

 

 冒頭の「きょう、ママンが死んだ。もしかすると、昨日かも知れないが、私にはわからない。」(p.6)という文だけでムルソーの無関心さや冷淡な性格が垣間見える。実際、ムルソーは基本的に見えるもの、触れるもの以外に関心を持たない性格が物語を通して淡々と描かれている。しかし、目に見える現象や景色については、「丘々まで連なる糸杉の並木、このこげ茶と緑の大地、くっきりと描き出された、まばらな人家」(p.22)のように細部に至るまで写し取られており、それによって具体性を好むムルソー人間性が強調されている。

 通夜の翌日、ムルソーは海水浴に行くと、元同僚であるマリイと偶然再会する。マリイと海で泳ぎ、その後映画を観に行ってムルソーの部屋で一夜を共にする。ムルソーはマリイにしばしば欲望を感じていたが、マリイに愛しているかと尋ねられると、それは何の意味もないことであるから愛していないと答える。ムルソーは普通の人にとって重大な意味を持つ愛や結婚に対して全く意味を見出せず、その時の身体的な欲求によってのみ行動するのである。

 別の日、隣人のレエモンと親交が深くなり、レエモンの友人とマリイと共に浜辺の別荘に行く。浜辺を散歩していると、レエモンと因縁があるアラビア人に再会してしまう。ムルソー匕首を持ったアラビア人と対峙し、しばらくの間、睨み合う。後ろを振り返り別荘へ帰れば済むことであったが、逃れられない太陽の圧倒的な光に耐え切れず前へ進み、思わずピストルでアラブ人を撃ち殺してしまう。

 第一部ではムルソーが今現在における身体的欲求や感情によって自由に生きていた様子が詳しく描写されていたのに対し、第二部では逮捕されたムルソーの裁判や獄中の数年にわたる生活が回想記のように記されている。

 裁判で、ムルソーにとって何の連なりも持たない偶然の連続によって引き起こされた殺人が、「その母の死の翌日、この男は、海水浴へゆき、女と情事をはじめ、喜劇映画を見に行って笑いころげたのです。」(p.120)と検事が言うように事件とは関係のないことで裁かれていく。ムルソーは殺人の罪によって無関心さや一般の人々とかけ離れた考え方といった人格的な面を糾弾されてしまう。裁判はムルソーの存在が消されたようにムルソーの意思が何の決定権も持たず進んでいく。結局、ムルソーは有罪となって死刑を求刑される。

 ムルソーは死刑を免れるために特赦請願を申請したが、特赦が認められるためには御用司祭に会い、神に許しを請う必要がある。ムルソーは神を信じていないので御用司祭の面会を拒否していたが、最終的に御用司祭と面会をするとムルソーに対して神に赦しを願い、希望を持って祈りなさいと言う。しかし、ムルソーは常に自分の信念に従って生きているのに司祭はムルソーの心が盲いていると言ったことによって怒りを爆発させ、司祭を罵倒する。この瞬間、ムルソーは改めて自分が正しいと感じ、幸福であることを確信した。

 ムルソーは母が養老院で希望を持つ意味を失い、死を待つだけとなったように牢獄で人間社会から完璧に遮断されたことで解放を感じ、生き返ったような思いになった。ムルソーはこの人間社会への別れによって、母が人生をやり直すために宗教に即して埋葬されたいと思ったことを理解した。

 この本と出会い、社会的な習慣や制度よりも自分の本心に対して素直に生きようとすると、社会からは受け入れられないと感じた。ムルソーは異邦人として扱われているが彼は他の人と同じように母を愛し、自身の欲求に素直に生きている一人の人間なのだ。ただ彼は世間の大多数とは違い、神や愛といった具体性のないものを信じず、海や太陽などの世界から享受されているものを愛しているだけなのだ。しかし彼の行動の本心は誰からも相手にされず、人間社会から追放されてしまう。この作品を通じて自分が正しいとするものと社会が正しいとするものは一致しないと感じた。自分の今までの生き方や将来やってくる死について、深く考えさせてくれる一冊である。